データサイエンティストは最新のテクノロジーが好きな人が多いのではないでしょうか?
今後拡大が予測されるWEB3.0時代のデータサイエンティストの活躍領域について、考えていこうと思います。
筆者はデータサイエンティストとして、長らく働いており、現在マネージャー職で分析会社に勤務しています。
また、データサイエンティストの人事制度にも携わり、データサイエンティストの将来のキャリアについても日々思考しています。
そんな筆者の目線からWEB3.0時代のデータサイエンティストの活躍領域についてまとめていきたいと思います。
この記事ではWEB3.0分野でデータサイエンティストが活躍する領域を実際の求人情報も含めてまとめていきます。
結論は「必要なスキルはいままでと変わらない、必要なのはWEB3.0の知識」ということです。
では、本題に移ります。
WEB3.0とは?
Web3.0は、インターネットの次世代の進化形であり、分散型技術と暗号通貨を活用して、よりオープンで自由なウェブ環境を実現することを目指す次世代のインターネットのあり方です。
従来のWeb2.0では、中央集権化されたプラットフォームやサービスが主流でしたが、Web3.0では中央集権化された権力を分散化し、個人やコミュニティがデータやコンテンツの所有権と制御権を持つことができます。
Web3.0の特徴的な技術として、ブロックチェーン技術やスマートコントラクトがあります。
- ブロックチェーン:
デジタルデータを分散化して保存し、改ざんや不正を防ぐ技術です。データはブロックと呼ばれる連結したセクションに格納され、ネットワーク上の多数のコンピュータで共有されます。透明性と信頼性があり、中央機関を必要とせず、取引や情報の安全性を確保します。 - スマートコントラクト:
ブロックチェーン上で自動的に実行されるプログラムです。条件やルールを組み込み、契約や取引を確実に実行することができます。信頼性と透明性が高く、第三者の介入が不要なため、信頼できる取引やデジタル契約の実現に役立ちます。
これにより、Web3.0では個人のデータやプライバシーが保護され、データの管理権限がユーザー自身に委ねられます。
また、データやコンテンツの共有や取引が中央集権化されたプラットフォームを介さずに直接行われるため、より公平で透明性の高いエコシステムが実現されます。
さらに、Web3.0ではユーザーが自身のデジタルアイデンティティを所有し、個人の主体性を強化することも可能です。
ユーザーは自身のデータを管理し、必要な場合にのみ共有することができます。
総じて言えば、Web3.0は分散化、オープン性、プライバシー、セキュリティ、所有権の個人化などの価値を重視し、ユーザー中心のウェブ体験を提供する次世代のインターネットと言えます。
WEB3.0におけるデータ
WEB3.0におけるデータは大別すると下記の二つのデータに分かれます。
(参考:CoinDesk/Blockchain Council)
- オンチェーンデータ:ブロックチェーン上に格納されるデータ
- オフチェーンデータ:ブロックチェーンの外部にあるデータ
下記はBitcoinでの一例です。
また、これらに加えて各企業にはいままでと同様にマーケティングのデータやサービスの利用データなども蓄積されます。
概要は下記です。詳細は少し長くなってしまうため、別途まとめます。
オンチェーンデータ
オンチェーンデータはブロックチェーンや分散台帳上に格納されるデータを指します。
これらのデータは、分散ネットワークのノードによって共有され、その正当性や整合性はコンセンサスメカニズムによって保証されます。
オンチェーンデータは、ブロックチェーン上で実行されるスマートコントラクトやトランザクションのデータ、資産の所有情報、取引履歴などを含みます。
例えば、イーサリアム(Ethereum)ブロックチェーンでは、スマートコントラクトのコードやトランザクションの詳細がオンチェーンデータとして格納されます。
オンチェーンデータについては一般的に誰でもアクセス可能なデータであり、アクセスの方法さえ覚えればデータの内容を確認することができます。
オフチェーンデータ
オフチェーンデータは、ブロックチェーンや分散台帳の外部に格納されるデータを指します。
ブロックチェーンだけで処理を行っていると処理時間がネックになり、取引量に制約が生じます。
そのため、処理時間のボトルネックを補完する形で一部の取引を外部で行い、最終結果のみをブロックチェーン上に格納することでブロックチェーン上の取引にスケーラビリティを与えます。
そのため、ブロックチェーン外部でも多くのデータが生じます。
これらのデータは、一般的には中央集権化されたデータベースやクラウドストレージに保存されます。
オフチェーンデータは、大量のデータやプライバシーの問題を抱える場合に特に有用です。
例えば、ブロックチェーン上のスマートコントラクトはコードの制約によって処理できるデータ量に制約がありますが、オフチェーンデータを利用することで、より多くのデータを扱うことができます。
WEB3.0でのデータサイエンティストの活躍領域
前章のようにWEB3.0ではブロックチェーン上のデータには誰でもアクセスすることができ、データサイエンティストの活躍する領域は増えそうです。
実際にどのような領域でデータサイエンティストが活躍できるかを考えていきます。
今回はWEB3.0関連の求人がまとめられているWeb3 Jobsの求人情報を参考に、WEB3.0領域のデータサイエンティストの活躍の場をまとめていきます。
あくまで一部であるということに留意ください。
データサイエンティストが活躍する領域には下記のような領域があります。
- マネジメント向けレポート
- マーケティング向けレポート
- プロダクトグロースのデータ分析
- データ基盤の構築
- トランザクション解析
詳しく解説していきます。
①マネジメント向けレポート
マネジメント向けのレポートを担当する役割です。
社内のプロダクトのデータ、ブロックチェーン上のデータをレポーティングして、戦略の意思決定をサポートします。
WEB3.0業界は非常に動きが早く、その時折の状況を即座に意思決定に反映させなければなりません。
そのため、日々重要データを確認するための、ダッシュボードの構築なども含まれます。
戦略の意思決定をサポートするためには、ビジネスモデルの深い理解・競合の情報・WEB3.0界隈の深い知識が必要です。
➁マーケティング向けレポート
マーケティング向けのレポートを担当する役割です。
WEB3.0領域では、まだまだ新興の市場であり、ユーザーも比較的少ない市場です。そのため、ユーザー獲得のために頻繁に大型のマーケティング施策が実施されます。
特に特徴的なものがエアドロップと呼ばれる将来的に価値が高くなる可能性があるトークンを無料でもらえるイベントを開催します。
エアドロップはユーザーを増やしたいという狙いがあり、一種のマーケティング施策と捉えることができます。
その他にも各企業はユーザーを増加させるために、様々な施策を実施しています。
このようなマーケティング施策の効果をレポーティングする役割はWEB3.0領域でも求められていく役割になるでしょう。
かなり専門性が高い施策もあるため、ビジネスモデルの理解・WEB3.0の深い理解が必要です。
➂プロダクトグロースのデータ分析
プロダクトをグロースするためのデータ分析を行う役割です。
WEB3.0領域ではブロックチェーン上の取引を円滑に行うために、各社がアプリケーションやプラットフォームを開発しています。
そのため、最もユーザーに近いアプリケーションのUI/UXは非常に重要な要素になってきます。
これらは従来までのアプリグロースと大きく変わらない役割は、WEB3.0の領域でも引き続き、必要なデータサイエンティストとして位置づけられます。
場合によっては、アプリログを使ったレコメンドシステムの構築なども必要になってくるでしょう。
WEB3.0の知識があることが望ましいですが、シンプルなアプリのグロースであれば必ずしもWEB3.0の深い知識が必要という訳ではないでしょう。
④データ基盤の構築
データ基盤の構築を担う役割です。
プロダクトやブロックチェーン上の取引を管理するシステムを構築するにはデータ基盤の設計が肝になってきます。
WEB3.0ではブロックチェーン上のオンチェーンの取引、ブロックチェーン外のオフチェーンの取引が発生します。
そして、今後の市場も広がりも考慮して、膨大な取引に耐えられる基盤設計が重要になります。
WEB3.0、特にブロックチェーンの知識を持ったデータサイエンティスト・エンジニアが求められる領域になります。
⑤トランザクション解析
ブロックチェーン上のデータを解析するトランザクション解析の役割です。
ブロックチェーン上のデータは一般的に誰でもアクセスができ、誰でも分析することができます。これは特定のプロトコル上の取引量やどのユーザーが取引を実施したが、公開されているということです。
ブロックチェーン上のトランザクションを解析して、市場の調査を実施したり、ビジネスの意思決定に活用するなど分析の活用方法は多々あります。
この役割はブロックチェーン上のデータを解析するために、WEB3.0関連の知識を深く持っておく必要があります。
WEB3.0領域のデータサイエンティスト求人
本章ではWEB3.0領域のデータサイエンティストの求人例を見ていきます。
WEB3.0に関しては、日本ではまだ規制も強く、海外が先行している市場環境です。そのため、海外の求人が主であり、日本の求人はまだ限定的です。
具体的にどのような求人があるのか見ていきましょう。
海外の求人
海外の求人例をいくつか紹介します。
ここでは、WEB3.0関連の求人がまとめられているWeb3 Jobsの求人情報を参考に求人例を見ていきます。(和訳しています。少々日本語が変な部分はご承知ください。)
Binance
Binance(バイナンス)は、仮想通貨取引所を運営している企業です。
Binanceは世界中のユーザーに対して仮想通貨の取引プラットフォームを提供しています。Binanceは、トレーディングペアや取引手数料、セキュリティなどの面で広範なサービスを提供しており、世界的にも多くのユーザーを抱えています。
また、Binanceは自社トークンである「BNB」を発行し、プラットフォーム内での取引や手数料の支払いに使用することができます。
下記がBinanceの求人です。
- 職種:
プロダクトデータサイエンスマネージャー - 役割:
プロダクト組織に組み込まれ、日常的に異なるプロダクトチームと連携しサポートする。データサイエンスの基礎を持ち、プロダクトデータ分析の経験を持つ自己主導型の候補者を求めている。実行力と納期の遵守に加えて、戦略、計画、チームの管理にも慣れている。 - 必要なスキル:
5年以上のプロダクト経験、5年以上のデータサイエンス/分析経験、テック企業での2年以上のマネジメント経験、SQLの熟達とRまたはPythonの専門知識、魅力的なデータの可視化とダッシュボードの設計と開発の経験、成長の観点からの優れたプロダクトセンスとプロダクトデータサイエンス/分析の深い知識、実験(A/Bテスト)や応用統計(仮説検定、回帰分析、予測モデリングなど)の知識、非技術的な対象者向けに複雑なデータを具体的な洞察に変換する能力、積極性と自律性、機械学習アナリティクス/プロトタイピングの経験があればプラス、統計の理解があればプラス、データサイエンティスト/アナリストの採用経験があればプラス。
- 職種:
ビッグデータエンジニア - 役割:
ビジネスシステムの柔軟で信頼性のあるサービス層を構築するために既存のデータ資産とプラットフォームコンポーネントを活用する。 - 必要なスキル:
コンピュータサイエンス、ソフトウェアエンジニアリング、または関連分野の学士号以上の学位、または同等の実務経験、ビッグデータ関連の経験、ビッグデータエコシステムの理解、計算エンジン(Spark/Flink)およびストレージエンジン(Hive/Hudi/Doris)の習熟、強力なJava/Scalaバックエンド開発スキル、SQL開発と最適化のスキル、Shell/Pythonなどのスクリプト言語に精通、大規模なビッグデータアプリケーションの監視、最適化、トラブルシューティングの経験があると尚良い。
OpenSea
OpenSeaは、NFT(非代替可能トークン)の最初で最大のマーケットプレイスです。NFTマーケットでは世界最大級のマーケットプレイスです。
OpenSeaのマーケットプレイスでは、アート作品、バーチャルランド、仮想ゲームアイテムなど、様々な種類のNFTが取引されています。
OpenSeaの求人情報の例が下記です。
- 職種:
シニアデータアナリスト - 役割:
データのクエリとレポートを担当し、法的な問題や業務などのトラスト&セーフティ関係者のためのデータを扱う。データチームのメンバーとして、製品、エンジニアリング、ビジネス関係者と協力し、Web3エコシステムで急速に成長しているNFTマーケットプレイスの成長に大きく貢献する。 - 必要なスキル:
数学、コンピュータサイエンス、経済学などの関連分野の学士号、SQL、Python、R、Tableau、Power BIなどのデータ操作、分析、可視化ツールの熟練度、データから洞察を提示するための強力な分析スキル、技術的および非技術的なステークホルダーに複雑な結果をわかりやすく伝えるコミュニケーションスキル、Web3の経験は望ましいが、好奇心があれば応募可能。データガバナンス、データ管理、データ品質のベストプラクティスの経験はプラスとなる。
Phatom
Phantomは、Web3アプリや金融サービスにアクセスするために数百万人の人々が利用している暗号通貨ウォレットです。
Phantomは、Web3.0の世界におけるデジタルアセットの管理と活用を容易にするための包括的なプラットフォームを提供しようとしています。
下記が、Phantomの求人です。
- 職種:
シニアデータアナリスト - 役割:
会社全体をデータによって強化し、製品およびビジネスの意思決定に影響を与えるためのデータ駆動型の洞察を生成し、伝えること。成長を理解し、製品およびオペレーションの変更の影響を測定するためのメトリクスと実験を開発すること。ユーザーのプライバシーに対するコミットメントと一致する会社のデータニーズを特定し構築すること。成長チームの一員として、製品、デザイン、エンジニアリング、オペレーションのステークホルダーと協力し、会社のロードマップに貢献すること。 - 必要なスキル:
製品志向の組織での5年以上の経験と意思決定を推進する経験、大規模で多様なデータセットの分析、クリーニング、レポート作成の経験、実験の設計とファネル分析の経験、SQLの習熟度とRまたはPythonの知識、暗号通貨、NFT、DeFiのデータセットでの専門的な経験があればプラス。
Ripple
Rippleは、ブロックチェーン技術を活用したグローバルな決済ネットワークを提供している企業です。
彼らの主力製品は、RippleNetと呼ばれるグローバルな決済ネットワークであり、金融機関や企業が迅速かつ安全に国際送金を行うことができます。
Rippleのテクノロジーは、従来の銀行間送金システムに比べて低コストかつ高速な送金を実現し、さまざまな通貨間の取引を円滑に行うことができます。
また、Rippleは自社の仮想通貨であるXRPを活用し、さらなる効率化と流動性の向上を目指しています。
Rippleは、金融業界における国際送金のイノベーションを推進し、より包括的で効率的なグローバルな金融システムの実現を目指しています。
下記がRippleの求人例です。
- 職種:
シニアトレジャリーアナリスト - 役割:
グローバルトレジャリー業務のすべての側面に関与し、会社の金融インフラの拡大を支援するための重要な取り組みをサポートする。キャッシュの予測と報告、銀行や取引所のオンボーディング、保険、プロジェクト管理などを担当する。 - 必要なスキル:
グローバルトレジャリー業務の経験、キャッシュフローの予測と報告、銀行や取引所の管理、ExcelやGoogle Sheetsの高度なスキル、分析力と細心の注意、優れた組織力とコミュニケーション能力など。
Mastercard
CipherTraceというMastercardの子会社は、暗号通貨経済を保護するブロックチェーンインテリジェンスソリューションを提供しています。
ブロックチェーン上では、ダークネットの販売業者、テロリスト、その他の悪意のある行為者が暗号通貨のエコシステムを不安定化させています。
暗号通貨利用者、金融機関、その他の暗号通貨ユーザーを搾取しようとする高リスク取引を特定するソリューションを開発しています。
Mastercardの求人例は下記です。
- 職種:
データアナリスト - 役割:
仮想通貨を巡るマネーロンダリングや詐欺などの金融犯罪に関する複雑な調査を担当し、仮想通貨の不正使用に関与するリスクの高い取引を特定する。資金の流れを追跡し、大規模なデータセットを分析し、金融犯罪の手法やトレンド、新興の脅威を特定し、情報収集と分析を行う。 - 必要なスキル:
科学や関連分野の大学の学位、OSINTとデータ分析ツールや技術の理解、包括的で高品質な分析とインテリジェンスレポートの実施経験、時間的制約を満たすために情報の網羅的な分析を行うスキル、仮想通貨やデジタル資産に関する現在のトレンドを分析する興味と能力、調査結果を報告する書面と口頭での報告のスキルなど。
日本の求人
日本ではあまりWEB3.0業界が進んでおらず、まだサービス開発の段階です。
そのため、求人としてはサービス開発の求人が多く、データサイエンティストの求人まで至っていないという現状があります。
下記は、日本のWEB3.0関連の求人の一部です。
現段階ではブロックチェーンエンジニアやデータ基盤を構築する求人が一部出てきているという概況です。
今後、WEB3.0関連のサービスが立ち上がり、データがたまってきた段階でデータサイエンティストの需要が増してくるでしょう。
WEB3.0時代のデータサイエンティストに必要なスキル
最後にWEB3.0時代のデータサイエンティストに必要なスキルを解説していきます。
WEB3.0業界で必要となってくるデータサイエンティストの役割や具体的な求人情報を見てきました。
今後、WEB3.0時代のデータサイエンティストに必要なスキルはどのようなものがあるのででょうか?
結論はいままでと変わりません。
ただ、必要となってくるのがWEB3.0業界に関するドメインのスキルが重要になってきます。
データサイエンティストに必要とされるスキルは、前述した求人情報を見ても、従来と大きく変わらないでしょう。
- ビジネススキル:ビジネスの課題を理解し、データを活用して解決策を提案する能力
- サイエンススキル:データ解析や予測モデリングに必要な統計や機械学習の知識と技術
- エンジニアリングスキル:プログラミングやデータベースの操作、ソフトウェアエンジニアリングのスキル
これらのスキルはWEB3.0時代のデータサイエンティストにも必要とされるコアスキルです。
しかし、ドメインに関する知識は求められ、ドメインを深く理解していることがデータサイエンティストとして、価値を出せるか否かに差分が生まれるでしょう。
まとめ
選考している海外の求人情報を見ても、今後やってくるであろうWEB3.0時代にもデータサイエンティストは必要となってくることがわかります。
しかし、データサイエンティストとして求められるスキルは従来とあまり変わりません。必要なのはWEB3.0の知識です。
この市場環境に上手く乗るためには、いまからWEB3.0に関する知識を付けていくことが重要です。
データサイエンティストは将来的に拡大が見込まれる市場に身を置いて、戦略的にキャリアを形成していくことが大切です。
共に、WEB3.0業界に対して理解を深めて、よきキャリアを築いていきましょう!
最後までお読みいただきありがとうございました。
今回は以上です。