データサイエンティストは分析業務に追われることも多く、最後の報告資料がおろそかになった経験は多くあるのではないでしょうか?
しかし、データサイエンティストの最も重要な業務は最後の「報告」です。なぜなら、最後の報告でデータ分析全体の価値が決まるからです。
筆者はマーケティング領域のデータ分析を長年担当しており、ビジネスサイドの意思決定を促すデータ分析を経験してきています。
データ分析を実際に行うのではなく、分析結果をいかにうまく伝えられたことが、史上最速でマネージャー職に昇進した要因の一つです。
今回は、そんな筆者の経験を基に実務で使えるデータサイエンティストの報告資料テンプレをまとめていきます。
この記事を読めば、一定品質の報告資料を短時間で作成することができるようになります。
結論は「報告資料の質を上げて価値を出そう」です。
では、本題に移ります。
データサイエンティストの価値
まずは前段としてデータサイエンティストの価値について簡単に説明します。
データサイエンティストの価値は「ビジネス課題をデータを活用して解決すること」です。
初学者の内はよく「データを分析すること」に主眼を置きがちですが、最終的にデータ分析がビジネス課題の解決につながっていなければ、価値はありません。
「なんか面白かったけど、最終的には課題の解決につながらなかったよね」となるのでは、データサイエンティストとしての価値はなく、自己満足に過ぎません。
データサイエンティストは「ビジネス課題を解決」して、ようやく価値が出る職業であることをまずは理解しましょう。
データサイエンティストにとって報告資料は超重要
データサイエンティストにとって報告資料は超重要です。
なぜなら、報告資料で自身が行ったデータ分析の価値が決定づけられてしまうからです。
一生懸命分析した結果が最終的に「価値高いもの」になるか、「価値のないもの」になるかは最終的な伝え方、つまり「報告資料」で変わってしまうといっても過言ではありません。
同じ分析結果でも伝え方次第で捉えられ方は大きく変わります。
だからこそ、データサイエンティストにとって報告資料はものすごく重要であり、ものすごく神経を使って作成すべきです。
データサイエンティストは「ビジネス課題を解決」してこそ、価値が発揮できる職業なので、分析結果がいかに「ビジネス課題の解決につながっているか?」という目線で報告資料を作ることが重要になります。
報告資料はストーリーにしなければ伝わらない
報告資料で最も大切なことはストーリーです。
ストーリーになっていない資料はほぼ間違いなく、価値を感じられないものになるでしょう。
データ分析のことを一番考えているのはデータサイエンティストです。データをどう加工するべきか、どのような手法で分析するか、どう可視化するか、などデータ分析に尽力を尽くします。
一方、分析結果を報告されるビジネス側の人間が考えていることはデータ分析ではなく、ビジネスです。データ分析ではありません。
目線が違うのです。
どちらに合わせるべきはもちろん「ビジネス側」です。なぜなら、データサイエンティストは「ビジネス課題を解決して価値が出せる」職業だからです。
そのため、報告資料として最も重要なのは「ビジネス側の目線でストーリーを作って伝えること」になります。
これができるデータサイエンティストは非常に価値高く、活躍できる人材です。
資料はおしゃれである必要はない、シンプルであれ
パワポで資料を作るために、重要なことは「シンプルであること」です。
よくおしゃれでデザイン性が高い資料を見ることも多々ありますが、おしゃれであることはさほど重要ではありません。
プロジェクトの立ち上げ時などに見栄えのよい資料を作成して興味を惹いたりすることもありますが、分析結果を報告する際にはそこまで重要ではありません。
よく「センスがないからパワポが苦手」という声も聞きますが、「シンプルであること」は最低限のルールとデザインを知っておけば誰でも簡単に作成することができます。
今回はデザイン性を求めず、シンプルである資料作成方法を解説していきます。
分析結果の資料構成
ここから具体的に分析結果の資料作成について解説していきます。
分析結果の資料構成として、よく使うものは下記の流れです。
- 背景・目的
- テーマの全体感
- STEP感
- 分析結果
- まとめ
- 確認事項 *必要に応じて
もちろん分析のフェーズにもよりますので、適宜必要に応じて使い分ける必要があります。
よく使うパワポデザインと共に解説していきます。
(前提)基本ルール
まず、前提の基本的なルールとして、下記のルールがシンプルさを上手く出すコツです。
- 配色は基本は1色+グレーで濃淡で強調(2色目は限られたときのみ)
- 自体はMeiryo UI
- 数字は半角
上記が最低限のルールです。
色がやや難しいと思いますが、白抜きのオブジェクトにしたり、濃淡をコントロールすることで強調は十分に可能です。
色は会社のテーマカラーに合わせればいいでしょう。
背景・目的
プロジェクトの背景・目的を整理して、大枠の目線を合わせます。
まずは、大上段の目線合わせを実施することから始めてスタート地点を合わせます。
パワポデザインは超シンプルです。これで十分です。
スタートラインなので、無駄な情報はそぎ落とし、目線をちらつかせないようにシンプルな二つの箱のみで語ります。
テーマの全体感
次に、テーマの全体感を示します。
どのような構造で検討事項があるか、テーマの全体感を構造的に捉えて全体像を示すことが重要です。
全体感を示す意図は下記の理由があります。
- 全体感を示し、テーマに対する論点・検討事項の認識があっているか確認する
- この先の分析のスコープ・位置づけを整理して期待値をコントロールする
①については、関係者でテーマに対する目線を揃えて論点・検討事項がどこにあるか揃えることを意図しています。
立ち戻って議論ができるように、全体感を作っておくと抜け漏れなく議論ができます。
➁についてはこの先の分析の位置づけを明示するために全体像が整理されていることが望ましいからです。
テーマの全体像を示すことで、どのスコープで分析を実施しているのか納得感をもってもらうことができます。
また、全体感はなにかしらのフレームワークを用いて整理できると望ましいです。必要に応じて見栄えのよい絵を書けるとなおよいです。
重要なことは網羅性があることです。網羅性があることで、質の良い議論・分析の位置づけを明確に示すことができます。
STEP感
テーマの全体感に対して、どのようなSTEP感でデータ分析を実施するかのアプローチを説明します。
どのような分析をするかを明確にして、各分析の位置づけを明示します。
この資料を挟む意図は下記です。
- 分析の位置づけを明示するため
- 詳細な分析スケジュールを作り、期待値をコントロールしやすくするため
①はしつこいぐらいに分析の位置づけを明示します。
細かい分析結果が出てくる前になにを分析しているのかを腹落ちしてもらうことで、ようやく分析結果に興味を持ってもらえます。
丁寧に分析のスコープを明示する意図があります。
➁については、分析をSTEP感に切ることでデータサイエンティストの成果物を細かく定義して、スケジュール調整しやすくするためです。
どのような分析が出てくるか、なにを目的に分析するかを細かく切ることで、いつなにが出てくるのかを説明しやすくなります。
分析依頼を押し込まれがちなデータサイエンティストですが、成果物をこちらから定義して、スケジュール感を議論しやすくする意図です。
また、この資料のTip’s的な使い方です。
必要に応じて下記のように、枠で囲ってアジェンダっぽく使うことで分析の位置づけを示すことをよくします。
全体感を示しつつ、分析結果を共有することができます。
分析結果
ようやく、詳細な分析結果に移ります。
どのような分析を行い、分析の結果なにが得られたのかを明確に示します。
必要に応じて、示唆・提言を行います。
重要なポイントは下記の2点です。
- 「事実」と「意見」は切り分けて記載する
- 極力シンプルにまとめる
①について、「事実」と「意見」を切り分けて記載することが重要です。
「事実」と「意見」が混ざると聞き手は困惑します。どのように議論をすればいいか迷います。
数字から見える「事実」はどこまでで、「意見」はどこからかを切り分けて議論することが質の高い討議につながるため、データサイエンティストの報告は気を付けるべき観点です。
➁について、極力分析結果はシンプルにまとめることが重要です。
データサイエンティストは深く分析しているので、普通に報告すると必ず受け手目線で細かく、わかりづらいものになります。
分析結果を伝えるのでなく、様々な分析をした結果で得られた結論を報告する感覚を持ちましょう。
結論を裏付けるデータのみを載せ、その他はAppendix(参考)として後半に載せておく程度が最も粒度として適切です。
基準としては上の一文で言い切れる情報量に留めることが重要です。
分析結果は報告する相手にもよりますが、上記の資料ぐらいシンプルの方が頭に入りやすいです。
まとめ
分析結果のまとめを記載して、最終的にどのような方向性に進むべきかを示唆・提言します。
重要なポイントは下記の2点です。
- 結論を極力シンプルにまとめてスタンスを持つ
- ビジネスに踏み込んだ一文を入れる
①について、「色々、分析した結論はこれです」と伝えることが重要です。
データサイエンティストとして、ビジネスにコミットするためにはスタンスを持って報告する必要があるからです。
「色んなデータを見た結果、データサイエンティストはどう思うのか?」という主張はビジネス側にとっても有用な意見です。
必ずスタンスを持つために主張をシンプルに伝えます。
最悪の場合ですが、分析結果が一切理解されなくとも、主張があれば、言いたいことは伝わるのでとりあえず議論になります。
➁について、ビジネスに踏み込んだ示唆・提言をすることが重要です。
「ビジネス課題を解決するために何をすべきか?」を提言せずに、データサイエンティストは価値を出すことはできません。
データ分析の話ばかりではいけません。結論はビジネスに踏み込んで語ることが重要です。
必要に応じて、ビジネスに踏み込んだ内容を詳細に語る資料を作ります。
ただ、分析の序盤であれば不要な場合もあります。終盤にかけて結論を出しに行く場合は具体的な内容を記載していくことが大切です。
確認事項(必要に応じて)
確認事項を聞く場合です。
ビジネスに踏み込んだ内容を記載しようとすると、データサイエンティストはわからないことが多いです。
そのため、不明点を最後にまとめて聞きたくなることが多いです。
なぜ確認したいのかを明確にした上で、質問することで確認意図も理解してもらえるため、効率的なコミュニケーションができます。
前ページの資料を左にギュッと寄せた状態で書くと、前のページとのつながりがわかりやすくおすすめです。
以上のように、全体の流れを意識した上で報告資料を作ることが大切です。
全体感を示しながらデータ分析の結果を見せることが重要です。
データサイエンティストは最後の自分の分析結果の見せ方にこだわりましょう。
資料の具体例
ここからは実際に一連のデータ分析を資料に落とし込んで、報告資料例を作っていきます。
今回はテーマとして、飲食チェーン店の評価向上を例に取って一連の分析資料を作成してみました。
全体の流れは下記のようになっています。
- 背景・目的
- テーマの全体感
- STEP感
- 分析結果
- まとめ
- 確認事項
- 今後の方向性
詳しく解説していきます。
背景・目的
まずは、背景・目的です。
シンプルに背景を左側に目的を右側に並べて、目線合わせをします。
シンプルであることが重要です。文章は端的に、文字は大きく書くことが大事です。
テーマの全体感
テーマの全体感を示します。
今回は評価を決める観点を「4P」のフレームワークで網羅的に示しています。
また、同時に今回の分析スコープを明示して、分析の位置づけを明確にするような形で資料をまとめています。
このように全体感を持って図示することで今回の分析がどの範囲を対象としたものか明確になり、一目でわかりやすくなります。
STEP感
次に、STEP感を示します。まだ分析結果は出しません。
最終的なゴールである、「打ち手の検討」まで行き着くためのSTEP感を明示します。
今回は「①全体傾向を把握する」、「➁課題の特定」を経て最終的な「➂打ち手の検討」をするようなSTEP感でまとめています。
このように整理することで、全体でやろうとしている分析の中のどこをやっているのかが明確になります。
また、小刻みにSTEPを提示すること、どこまで分析するかの期待値をコントロールしやすくすることができます。
一連の分析プロセスを小刻みに設定して、自身(自チーム)の工数管理もしやすくする設計する意図を込めてます。
このSTEP感をアジェンダっぽく使って、次の分析結果に移ります。
分析結果
いよいよ分析結果です。ここでようやく登場します。
どのような分析かが一目でわかるように、太字かつ下線で目を惹いています。
全体の結果をシンプルに見せつつ、右側の結果・示唆で分析により得られた示唆を明示します。
特に重要なのは右下の意見です。
どのようにビジネスを改善すべきか?ビジネスに踏み込んだ内容を記載することが重要です。
データ分析だけでは価値は出ません。ビジネスに踏み込んで分析結果を表現しています。
今回は店舗数が多く、評価が低かった「低単価の店舗の改善が急務」と主張しています。
低単価の店舗を深堀する形でページを切り替えて目線を誘導します。
低単価の店舗の深堀により、具体的な課題を明確にします。
ここでは、顧客のユーザビリティという観点から分析した結果を載せています。
重要なことは仮説を明示した上で分析結果を話すことです。仮説を最初に明示することでなにを検証する分析か瞬時に伝わるため、効率の良いコミュニケーションが可能です。
また、資料を極力シンプルにまとめることも非常に重要なポイントです。
この結論に至るまで裏側では多くのデータを見ることになるでしょう。
しかし、そのようなデータ・資料はすべてAppendix(参考)として、ページの後半に付けておく程度で十分です。
結論を裏付ける分析資料のみを報告して、気になられたことをAppendix資料で話すことで議論の活性化して、よい議論が可能です。
このように、分析結果は極力シンプルで一目でわかるレベル感にまとめることが重要です。
データサイエンティストは「データを活用してビジネス課題を解決する」ことが価値です。
いくら分析しても伝わらなければ価値はありません。
まとめ
最後にまとめです。今回得られた分析結果・示唆を1枚にシンプルにまとめます。
今回の結論は「ユーザービリティ観点から顧客体験を向上させて評価の底上げを図るべき」というものです。
特に、システム改修まで含めて検討をすべき、と具体的なアクションまで提示して意見を引き出そうとしています。
重要なポイントはビジネスに踏み込んで、主張を作ることです。
ビジネス目線でデータ分析している人材として映るため非常に価値を感じてもらいやすくなります。
確認事項
最後に必要に応じて、確認事項を整理して確認します。
今回はシステム投資を実施するための現実性や関連部署を聞く形でまとめています。
ビジネス目線で打ち手を実施する目線で記載しています。
今後の方向性
最後に今後の方向性を明示して、締めます。
今回は途中までの分析のため、最終的にどのようなアウトプットを出すかのイメージを記載して、報告します。
最後までビジネスに踏み込んだ形でまとめています。
【まとめ】報告資料の質を上げて価値を出そう
今回はデータサイエンティストの報告資料にフォーカスして、解説してきました。
データサイエンティストは最後の報告が非常に重要であり、報告によって分析の価値が決定づけられます。
意思決定を促すようなデータ分析を担う方は、報告資料の質を上げて価値を出すことが重要です。
WEB3の世界でも、データサイエンスによって様々な意思決定を促す必要性が出てくるでしょう。
より複雑化するWEB3の世界ではシンプルな報告・説明が求められ、報告資料の作成はより重要なものになってきます。
経験を重ねて、シンプルかつ価値高い報告ができるデータサイエンティストになりましょう。
今回は以上です。